中古ピアノ販売・ピアノ買取・ピアノ修理調律 クラビアハウス

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ロンドン在住の調律師さんからのご紹介にて知り合った駐在員ご家族からのお話しで、イギリスに来てからインターネットの個人売買にて入手したグランドピアノを帰国に際し、やはり持ち帰るかどうか考えている為に「状態を見て下さい」とのご相談で、訪問してきました。









N様のお住まいは何と、Westminster地区となりましてすぐ近くに国会議事堂及びビックベン、ウイリアム王子の婚礼やダイアナ妃の葬儀が行われたウェストミンスター寺院などがあり、ロンドンの中心地です、日本のニュース番組などでイギリス関連の報道をする際、テムズ川の対岸から映されるのを見かけます。

日本だと永田町とか、赤坂辺りと言う所でしょうか?






伺ってみるとマホガニーの外装がお部屋にとてもよく似合っているものでした。

ピアノは1900年初頭にROGERSというロンドンで造られた6本脚の物です。
このブランドのピアノをたまにイギリスで見かけますが日本では知名度が低い為に仕入れた事は在りません。やはり以前イギリスに住んでいらした方(日本人)がROGERSのアップライトピアノを現地で購入し日本に持ち帰られ10年以上何置きっ放しだった物を当社へ修理依頼して下さいまして直した事が在ります。
そのピアノ(1900年初頭物)に関して言えばドイツ並のクオリティーでとても良い印象が在ります。

まず音を出してみた所、全体の響き自体は良いのですが極端に音が狂っている箇所が在り既にチューニングピンが勝手に廻って(戻って)しまっているのが分かりました。

「訪問記その1~Y様」同様に残念ながらチューニングピン板の劣化と言う事となります、小さな亀裂ですが多すぎる為にオーバーサイズのピンへの交換や他の手段(修理)もとれそうには無くこのままでは調律が出来ない様になるまでそう時間は掛からないはずです。
もしこのピアノを使用するのであればピン板の作り替え(交換)が必須となります。尚、フレームを外してみないとこの板の形状及び取り付け構造が分からない為に直す手間がどの程度掛かるのかこの場では何とも言えません。




画像はピン板裏側の状態もライトを当てて手鏡で見ている所です。
(下記、フレーム及びピン板関係参考資料在り)




他の劣化や消耗の度合いも一通り目を通します。

鍵盤、アクションと引き出してみました所奥から外側が覗いています、何かが外れてしまった訳ではなくただ簡素な構造の様です。






裏側

細めの支柱が一応一本だけ入ってはいます、「これで十分」との事なのでしょう中には柱が全く無い物も見かけます小さいピアノ程その傾向となる様です。
ボディーが短いので捩れなどの可能性が低いのとあくまでもフレームが中心となる剛性構造なのだと思います。響板、響棒の方は状態が良く割れや剥がれは見つかりませんでした。


ペダル箱が支柱右側と接着切れとなり離れてしまっています、この状態だとペダルが効きませんので、N様は箱と床との間に物を挟んでお使いになられていました。
これは我々も場合により取る手段ですので良い方法だと思います。


アクションメーカーSCHWANDER社、この当時の色んなピアノで目にします、当社で今まで仕入れた数十台のビンテージピアノの6割方がこのメーカーを使用していまして耐久性は本当に信用出来きます100年以上経過した物でも不思議と膠の割れ剥がれ、スプリングの破損と、とても少ない物です。
また私が今まで見た限りで1920年以降にRenner社、Langer社、H.F.flemming社、などの比率が徐々に増えて来る様です。


フェルトの類、皮の類とチェックして行きます、ハンマーを始めとした大方の部品の寿命は残っています。


象牙の白鍵盤

とても状態が良い部類に入り表面研磨にてかなり綺麗になる事が見込めます。


今回もピン板の劣化が決定的なダメージでした。技術的には勿論直せますがこのピン板交換(製作)、弦張替え、その他の細かな修理、調整、調律とを足すととても50万円以下の料金と言う訳には行きません、また日本での届け先は愛知県ですのでお勤めされている会社がどこまで運送料金をカバーして頂けるのか知りませんが当社横浜を経由しますので配送コストも嵩むのではと思われます。
この様な説明をN様にしまして考えて頂く事となりました。尚、N様は私の訪問に際しお子さんのバイオリン演奏をお母さんのピアノ伴奏にてご披露して下さり素敵な時間を本当に有難うございました、とても思い出に残っております。また渡英中は車を出し楽器店の案内までして頂き本当にお世話になりました。

後にN様から思案の結果、日本での住宅スペースのことなども考えピアノはイギリスで手放す事にしましたとの連絡を頂きました。それからしばらくしてN様より、ピアノの搬出業者さんが来たのはいいんですが「どの脚から始めに外せばいいのか分からないと作業員の方が言い出して困ってます」との国際電話がロンドンから私の所に入りました、何と頼りにならない業者が来てしまったのかと驚きましたが(左側から外すのはイギリスも日本も同じ)、結局その後N様(奥様)も手伝って階段からそのグランドピアノを外まで運び出したそうです、大変お疲れ様でした。。。私が通常イギリス内で運送依頼している業者さんでは考えられませんので他所さんが来た様です。

この度は色々とご協力誠に有難うございました、関東に来た際には当工房へも是非お立ち寄り下さいませ、またいつか会える事を楽しみにしております。
 
(有)クラビアハウス
代表 松木一高

(* 上記、N様ご了解の上で掲載させて頂いております。)
 

参考資料

このピアノもやはり1900年初頭のイギリス製ピアノです、ブランド名はBroadwoodと言いベートーベンが晩年に使用したメーカーとの事も在りROGERSよりは幾分日本でも知られているのではないかと思われます。以前イギリスで仕入れて日本に送り当社で修復した物です、小さいながら鳴りは十分で象嵌入りのとってもお洒落なピアノでした。






弦関係、フレームと外すと本体及び響板だけとなります、画像は響板塗装の準備中です。


鋳鉄フレームを外した所です。


フレームの裏側に付いている木製部分がピン板です、ここに亀裂、剥がれなどが起こるとチュウニングピン、回転への摩擦抵抗が減り弦張力に負けてしまい最後には勝手に廻って(戻って)しまう事に至ります。 
余談ですが、このピアノはピン板がフレームに付けられていて本体側とは接着は勿論の事、ネジ留め、だぼ、など一切在りません。製造、修復の作業性で言うと楽な面がとても多いとは思います、しかしこれも小さなピアノだからかも知れません、また全てのBroadwoodが同構造と言う訳でも在りません。フランス製のピアノを修復した際にほぼ同構造の物が在りましたがドイツメーカーで私が今までにフレームを外した物に関しては全てピン板は本体側に付けられていました。 


フレームから外した所となりますがこのピアノに関してはピン板に劣化は見られ無い為に(勿論仕入れる時点でも舐める様にチェックはしています)

オーバーサイズのチュウニングピンと入れ替えて再使用しました、もし交換の場合同じ形状のピン板を作る作業となりますが比較的にシンプルな為に楽ではないかとの想像がつきます。






※今後も写真や文章を書き足していきますので どうぞご覧下さい。




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