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工房に届いたピアノを、いつもの様に寝かして解体して行きます。 |
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チューニングピン、弦と外して、フレームを降ろしたところです。 |
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下見の時点で、チューニングピンがかなり緩かった為に、O様にはこの部分(チューニングピン板)も「もし再使用不可能な場合は交換となります」とお話してありましたが、やはりその様になってしまいました。 |
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割れが多数発生してしまっていることと、造りがそもそも雑です。
このように多くのピン穴に木の接合部があっては、緩くなって当然です。 |
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ピン板を支柱に留めてある木ネジを全て抜いて、からノミで剥がします。 |
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今回一番問題の響板関係です。
このピアノは正目板15枚を接着してできていて、その為板どうしの接着は14箇所になります。その内13箇所は剥がれて(開いて)いましたので、ほぼ全滅といえます。
下見の時に殆どがだめであろうと思いましたが、やはりそうでした。このような状態を業界では、一緒くたにに,よく「響板割れ」と言っていますが、割れと剥がれは違います。今回個別の板そのものは全く割れていません。乾燥不十分の木材にて貼り繋いでいった物が製造後(何年後か分かりませんが)に乾燥して(縮んで)それぞれの繋ぎ口が開いて(剥がれて)しまったものと考えられます。これだけ開いている箇所が多くなると響板裏側の響棒との接着も怪しいものです。実際に調べたところ、やはり浮いている(剥がれている)部分が多数見つかりました。こうなると全てを一度剥がしてから接着し直したくなります。しかし綺麗に原型を留めた状態で響棒を外すのは無理でした。中にはしっかり着いているものも混じっています。
長い目で見た安心の為にO様の承諾を得た上で、響板そのものを交換することにしました。
響板のサイズを用紙に書いて注文を入れます。 |
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本体から(淵廻しから)外した響板の裏側です。棒状の木が響板の木目と直角方向に貼ってあり、弦振動を全体的に伝える事と業界では「クラウン」とか「むくり」等と言っていますが、弦方向(本体手前側)に響板が曲面になるようにする役目も担っています。
思い当たる薬品や蒸気を響棒の際に当てたりと試みたんですが接着剤は反応(剥がれる)してくれませんでした。
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ドイツより届いた響板と響棒です。 |
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淵廻しと支柱の接着も怪しい箇所はしっかりと着け直しておきます。 |
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この角材を加工して響棒を作ります。 |
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削った(作った)響棒を一度淵廻しの溝に入って様子を見ます。 |
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響棒をつっかえ棒の力で押しつけて貼ります。 |
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全て貼り終わりました。 |
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駒の位置出しの為に仮組をしたところです。 |
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駒に割れが入っているので、そのままでは使用できない為に上面をメイプ材を貼って作り直します。
バンドソーで切ったものをクランプにて圧着し、その後だいたいよさそうな所まで電気カンナで削っておきます。 |
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低音部の駒も剥がれが多い為に全て作り直す方が安心です。
オリジナル同様にパイン材とメープル材を使用します。
但し強度を考えてコマピンの箇所は階段状の形状に作ります。
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響板の裏から駒に対して木ネジが入っています。接着と同時にしっかりと締めます。 |
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駒の接着の次に響板を本体に取付(接着)です。
接着剤を淵廻しに塗って響板をのせ小さな木ネジ、多数にて締めて(留めて)いきます。その時に接着剤が、はみ出てくるのを見ると十分に行き渡った事を意味しますので安心できます。 |
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響板は淵廻しの近くにくると薄くなっています。
中央部分で10.5mm、端の一番薄いところで9mmでした。
電気カンナとベルトサンダーでオリジナル同
様の厚さに削りました。
まっすぐなアルミアングル材を充てたところです。響板が曲面状になっていることが分かります。 |
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ピン板のネジ穴あけ及び接着です。 |
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チューニングピン板交換の場合に必ず行う
「ピン板合わせ」の作業です。フレームの側が真っ平らではない為にピン板にのせて見て塗っておいた塗料のついた部分をベルトサンダーなどで削っていき、何度かそれを繰り返して隙間がなくなる様にするものです。地道でローテクな作業と言えます。 |
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内部修理と平行して外装関係です。
O様から木目の艶出し仕上げとの希望を、始めから聞いていましたが実際に塗装を剥がしてみないと何とも言えないことも説明してありました。
外装担当のN氏より全ての塗装を剥がした後に「木目が可能」との連絡が入りましたので、O様宅へ塗色の打ち合わせに伺いました。そもそも素敵なアンティーク家具などを、いくつか持っていらっしゃいますが、その内のひとつで猫脚のダイニングテーブルが有り「これと同様な色で」とのご指定を頂きまして、作業を進めること致しました。
写真は塗装工房にてN氏が黒の塗装を全て剥がし終わったところです。 |
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O様のご希望で表面の仕上げは艶出し鏡面です。また、単なる偶然ですが、上前パネル木目が桜材の板目の様な感じで本当に綺麗な部分が出てくれました。
左下3枚の写真はピアノを引き取りした時と修理作業が全て終わった時のものです。 |
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次に駒を作ります。
フレームをネジ留めして高さを決め、カンナで削っていきます。 |
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駒の上面にコマピンの穴をあけ、そこからノミで切り欠きして最後にコマピンを打ち込んで出来上がりです。 |
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N氏による響板の塗装作業です。 |
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響板のロゴマークを今回はちょっと贅沢に手書きで、トータルペイントの講師をされている大沼先生に再現していただきました。
まるで転写デカールのように綺麗です。
ありがとうございました。 |
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響板の塗りが終わりました。 |
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フレーム塗装です。 |
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フレームに使用するネジを磨いたり、塗ったりして綺麗にします。 |
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フレームを入れてネジ留めです。 |
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弦貼りの準備です。
ここでもヒッチピンフェルト、チューニングピン、弦(低音弦はHELLR BASSで製作)と独製を使用します。
当社では外国性製ピアノの修理もやっておりますので、外国製部品の入手自体珍しいことではありませんが、こう何から何まで日本製のピアノにドイツ製を使用するということは例がありません。 |
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弦を張りました。 |
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次に塗装の仕上ったケース関係の組付けです。
それぞれのパーツの辻褄が合うか確かめながら進めていきます。
このピアノに限りませんが、もともと、そう正確には作られていないことと、木そのものが反ったり捻じれたりなども含むために、単純に組み立てれば良いわけではありません。組んで蓋がしまらない、パネルがつかない等と出ますので、どこかを削ったりなどして何とかします。 |
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とりあえず仮組で鍵盤も含め蓋、パネル類、ペダル関係など何かに干渉しないかチェックします。 |
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アクションパーツの組付けです。
全て独Renner社製を使用します。 |
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象牙鍵は漂白しました。 |
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アクション、鍵盤、ペダルなどのトータル調整(業界では整調)をします。 |
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調整関係が終わって調律です。
納品日までの間に何度も行います。
コルグ社製のサイレント装置も取り付けしました。 |
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最終的なチェックの為に納品後のお披露目演奏会でも、お世話になった阿部先生に約1時間ほど引き続けていただきまて、問題は特別無いたっめに修復の終了となります。
この度は当社へ修復をご依頼くださいまして、誠にありがとうございました。
また期間も十分にいただけたために、細部にまで十分に手を入れることが出来ました。
今後調律等のメンテナンスで、長いお付き合いになると思いますが、どうぞよろしくお願い致します。 |
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